相続放棄を弁護士に依頼するメリットとは?

文責:所長 弁護士 横江利保

最終更新日:2025年01月10日

 被相続人の権利や義務を一切相続したくない場合には、「相続放棄」という選択肢があります。ただし、相続放棄に失敗しないためには、相続を得意とする弁護士に相談することを強くおすすめします。

 なぜ、相続放棄に弁護士が必要なのでしょうか?本記事ではその理由を説明していきます。

1 相続放棄とは?

 相続放棄をすると、相続の開始時にさかのぼって「元々相続人ではなかった」とみなされます(民法939条)。そのため、相続を放棄した人には相続権がなくなり、故人の財産を全く承継できなくなります。

 もちろん、「プラスの財産は相続して、マイナスの財産は相続放棄する」という都合の良いことはできません。

 また、車や不動産など相続財産を処分すると、「単純承認」とみなされる可能性があるので注意が必要です(同法921条1号)。

2 相続放棄を弁護士に依頼すべき理由

 相続放棄の手続きは、家庭裁判所で行う必要があります。

 裁判所で手続きするとはいえ、相続放棄の手続き自体はそれほど複雑ではないため、自ら行うことも可能かもしれません。

 しかし、手続きは可能であっても、相続放棄は弁護士に代理してもらうべきです。

 なぜ敢えて弁護士に依頼すべきなのか、その理由は以下の通りです。

 

⑴ 財産調査の必要がある

 相続放棄を行うためには、先立って、故人の財産を調査する必要があります。

 「被相続人は借金ばかりしていたが、予想外の財産が見つかった」というようなケースでは、相続放棄をせずに済むかもしれないからです。

 十分な財産調査をしないで相続放棄をしてしまうと、相続できたはずの財産を失ってしまうおそれがあるのです。

 財産調査は意外に難易度が高く、遺産を見落としてしまうこともありますから、相続財産として何があるか分からないという場合は、ご自身で調査するのではなく弁護士に調査を依頼した方が安心です。

 

⑵ 法律上の熟慮期間内に判断して手続できる

 相続放棄をするか否かは、熟慮期間である相続の開始を知ってから「3ヶ月」以内に決めなければなりません。(実務では、通常被相続人の死亡日から起算します)。

 弁護士に依頼しなければ、前述の財産調査が徒に長引くなどして、3か月の熟慮期間が過ぎてしまう可能性があります。

 もっとも、熟慮期間内に相続放棄の判断ができない場合には、家庭裁判所に申し立てをすることで熟慮期間を伸長できます。しかし、この伸長手続きにも手間がかかるため、弁護士に手続きを依頼した方が確実です。

 また、極めて例外的なケースですが、被相続人の死亡日から3か月の熟慮期間が過ぎても、熟慮期間の起算点を変更することで、事実上,熟慮期間の伸長に成功できた事例もあります。

 熟慮期間を過ぎていたとしても、一度弁護士に相談してみましょう。

 

⑶ 相続放棄に対して慎重な判断ができる

 相続放棄は一度行うと撤回できません。

 相続放棄をしてから「プラスの財産があった」「普通に相続すれば得だった」と後で気づいても後の祭りです。

 そのため、相続放棄をする際には、事前に慎重な判断が求められます。

 弁護士に依頼すれば、多角的かつ総合的に考えてくれるので、相続放棄すべきか、他の方法で相続すべきかを適切にアドバイスしてくれるでしょう。

3 相続放棄を弁護士に依頼する流れ

 弁護士に相続放棄を依頼した場合、どういった流れで処理が行われるのでしょうか?

 

⑴ 相談と依頼

 まずは弁護士に相談します。初回の相談は無料にしている法律事務所も多いので、積極的に利用してください。

 弁護士の対応に問題がなさそうであれば、正式に依頼しましょう。

 

⑵ 必要書類の収集と作成

 相続放棄が決まったら、以下のような書類が必要です。弁護士が適宜収集と作成を行います。

 ・相続放棄申述書

 ・相続放棄する人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)

 ・被相続人の住民票除票又は戸籍の附票

 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)

 必要書類はケースごとに異なるため、弁護士が判断しながら揃えていきます。

 また、戸籍全部事項証明書などは本籍地でしか取得できません(2021年1月現在)。

 そのため、弁護士には、時間に余裕を持って依頼する必要があります。

 全ての書類を揃えたら家庭裁判所に提出します。

 

⑶ 家庭裁判所からの照会書を確認・回答・返送

 相続放棄申述書を提出した裁判所から、相続放棄する人の自宅に「照会書」が送られてきます。

 これは「本当に自分の意思で相続放棄を行っているか?」「相続放棄の内容を理解しているか?」などを裁判書が最終確認するための書類です。

 裁判所が確認できるように、同封されている「回答書」に必要事項を記入して返送する必要があります。

 回答書は、選択肢を選び、空欄を埋める書式となっており、記入に際してあまり難しく感じることはないでしょう。

 不安な方は、弁護士にアドバイスを求めて記入してください。

 

⑷ 相続放棄申述受理通知書の到着

 照会書(回答書)を返送して相続放棄が受理されると、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。

 例えば、故人の債権者等から支払い請求を受けたときに、この通知書があれば、「相続放棄しているので払う必要がない」と証明することができます。

 通知書は、紛失すると再交付はされませんが、万が一紛失した場合は、代わりに「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらえます。ただし、手数料がかかるのでご注意ください。

4 相続放棄に失敗しないために弁護士に相談を

 相続放棄の熟慮期間である3ヶ月は思ったよりも短いものです。そのため、相続放棄の手続きは迅速に進めなければなりません。

 しかし、どのような相続財産があるのか、そもそも本当に相続放棄をするべきなのか等の判断は慎重に行わなければなりません。

 弁護士は、個々のケースに合わせて相続放棄・単純承認・限定承認それぞれの損益を比較・検討し、あなたにとって最適な解決方法をアドバイスします。

 現在判明している資産や債務のみならず、将来新たな財産や借金が出てくる可能性などもふまえて検討することが可能です。

 熟慮期間が迫っていても慌てて一人で判断せず、まずはお早めに相談ください。

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